老子小話 VOL 962 (2019.04.20配信)

兵者不祥之器、非君子之器。

不得已而用之、恬淡為上。

(老子、第三十一章)

 

兵は不祥の器にして、君子の器に非ず。

已むを得ずして之を用うれば、

恬淡を上と為す。

 

昨日東京池袋で悲しい出来事が起きました。

高齢者の運転する自動車が、母子二人をはね、

その命をあやめてしまいました。

被災された方々に慎んでお悔やみ申し上げます。

この事故を聞いて、老子の言葉が浮かびました。

「武器は不吉な道具であり、

君子が使う道具ではない。

止む得ず使う場合、執着を持たず

あっさり使うのがよい。」

自動車も武器と同じように、不吉な道具に

なり得る。

それを用いる人間の心がけひとつで、

ひとをあやめる道具になる。

きっとこのご老人も、自分の運転には自信が

あり、まさか自分の運転が他人をあやめる

なんて考えたこともなかったでしょう。

老子は、いくら便利な道具であろうとも、

使う側の心がけ次第で、不吉な道具になると

警告を発します。

ひとをあやめてから反省しても最早手遅れです。

止むを得ず使う場合であっても、恬淡に使え

という。

恬淡は、動転することなくあっさりと使う。

状況を打開するため、道具を必死に操作する

ことなく、操作を停止すればよい。

ブレーキを踏んだつもりで、アクセルを踏み

続けることはなくなります。

道具は所詮人間が作ったもので、完璧なもの

はできません。

それを過信して、慌てふためき操作を誤ると

事態はもっと悪くなる。

恬淡として、操作を一度放棄するのがまだまし。

自動車が不吉な道具だけでなく、自転車だって

扱い方ひとつで、ひとをあやめる道具になる。

事故が起こってからでは手遅れです。

もう一度、老子の言葉をかみ締めましょう。

 

有無相生

 

 

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