老子小話 VOL 949 (2019.01.19配信)

労働自体に価値があるのはなく、

労働によって、労働をのりこえる。

・・・・その自己否定のエネルギーこそ、

真の労働の価値なのです。

(安部公房、「砂の女」)

 

最近、「砂の女」を読みました。

砂地獄にはまり、そこの住人の女と共に

崩れ落ちる砂をすくう労働を果てしなく

続ける男の話です。

労働の価値を問う言葉をお届けします。

砂をすくう労働は、自分がいる砂の穴に

崩れ落ちる砂から身を守る労働です。

自分の生存のために働く。

いわば今の自分という現状を維持して

生存を続けるために働く。

しかし、真の労働の価値は、自己否定の

エネルギーだという。

動物は生存のため本能的に労働している。

しかし、人間は生存を乗り越えて労働する。

現状維持という自己肯定を否定するパワー

を労働は与えてくれるという。

この男も砂地獄における労働の中で自分を

変化させていく。

この本を読んでいて、かわりばえがしない

日常生活も砂地獄のようなもので、その中

で労働している我々もこの男と変わらない

ように思いました。

人間の生存は無の状態。

生まれてきて、ある期間養育され生存が

保護され、その後自立して、生存のために

労働しているのは、まだ無の状態です。

無から有へのきっかけをつかむのが労働です。

有とは、無からの変化分、つまりどこまで

自己否定できたかの程度です。

数日前TVで、「なぜ大人は一年を短く感じる

のか」という質問を投げかけていました。

答えは、わくわく感というか感動が減るから

というものでした。

旅行に行くと偶然的な経験が多くなり、一日が

長くなり、旅行から帰って一週間も経たないのに

一月前のように感じるのはよくあることです。

労働しながら何かに感動することが、真の労働の

価値であるということになります。

感動というのは、ぼおっと見ていた景色から

何かに気づくことで、無から有を生み出すこと。

ということで、「砂の女」は新たな感動を与えて

くれました。

 

有無相生

 

 

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