老子小話 VOL 940 (2018.11.17配信)

限りある命のひまや秋の暮

(蕪村)

 

今回は蕪村の句をお届けします。

朝夕の風が冷たく感じる季節になりました。

この頃になると、この句が身に沁みます。

秋の暮がなぜ寂しいのか。

美しい紅葉が散って、やがて冬を迎える。

もののあわれを移りゆく季節の情景に感じ、

そこに自分の人生を重ねるからでしょう。

「命のひま」という言葉が心を打ちます。

春夏秋冬と季節は廻りますが、ひとの命は

一回限りで、今年の秋は去年の秋とは違う。

去年一緒に暮らした人は今年の秋にはいない。

「命のひま」は、秋の暮の寂しさを味わう

機会といってもよい。

現代人は「命のひま」がないほど忙しい?

電車に乗っても歩いていてもスマホを片手に

「ひま」を捨てています。

周りの自然、すなわち秋の暮は、限りある命

を教えてくれます。

それに気づくのは「命のひま」があるからです。

蕪村は別の句で、

「門を出れば我も行人秋のくれ」

といいます。

門を出れば、自分も秋の暮を歩く旅人になる。

門を出るというのは、忙しい日常を離れること。

「ひま」を捨てずに、日常を離れる一瞬を自分で

作ればいいだけの話です。

残りの人生が少なくならないと、秋の暮の寂しさに

気づきませんが、蕪村の句を味わうことで、

命の限りを自覚することはできます。

 

有無相生

 

 

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