◆老子小話 VOL
931 (2018.09.15配信)
砂漠のインド人は魚を食わぬことを誓う。
(ゲーテ)
今回は、「ゲーテ格言集」(新潮文庫)より
意味深な言葉をお届けします。
ゲーテはドイツの作家ですから、この言葉は
ドイツ語で書かれています。
これを英訳すると、
The Hindoos of the Desert make a solemn vow
to eat no fish.
となるそうです。
砂漠に住むヒンズー教の人は、魚を食べないという
厳かな誓いをする。
ヒンズー教には、肉や魚は、先祖の生まれ変わりの
可能性があるので食べてはいけないという戒律がある。
キーとなる言葉は、「砂漠」です。
そもそも砂漠には水がないので魚などいません。
得られない食べ物を食べないことは、厳かに誓いを立てる
ほどのことではない。
それをあえてするヒンズー教の人を皮肉ったのでしょうか。
Hindoo=hinduでヒンダスタン地方、つまり北インド人と
いう意味もあります。
ヒンダスタン地方にはタール砂漠もあります。
和訳の「砂漠のインド人」となると、地理的宗教的な
意味合いが抜けてきます。
次の問題は、確実にできることを誓おうとするのは、
砂漠のインド人だけなのか? という問いです。
外見がいくら素敵でも心の歪んだ、いけメンや美女とは
絶対に結婚しないと誓うのも似たような誓いです。
でも確実に実行できる誓いがひとつかふたつあっても
いいかもしれません。
この世の中、実行できない誓いが多すぎます。
結婚式の時に、相手への終生の愛を互いに誓う。
実行できたカップルがどれだけいるでしょうか。
原爆の日に、核廃絶の誓いを立てる。
しかし、政府が核廃絶条約に反対する。
実行が難しい目標に誓いを立てずに、毎日実行できる
ことに誓いを立てる。
ゲーテは、「砂漠のインド人」を皮肉ったのではなく、
誓いのお手本と感じたのかもしれません。
有無相生