老子小話 VOL 917 (2018.06.09配信)

To live in hearts we leave behind

Is not to die.

(Thomas Campbell,“Hallowed Ground”)

 

今回は英国の詩人の言葉をお送りします。

この言葉に出会ったのは、最近読んだ、

阿川弘之氏の「米内光政」という小説の中です。

阿川弘之氏といえば、あの天真爛漫な阿川佐和子

さんのお父様で、海軍での体験を書いた小説で

有名です。

米内光政氏は終戦に向けて尽力された海軍大将で、

「米内光政」では、日米開戦当初から開戦に反対し、

日独伊三国軍事同盟締結に反対し、陸軍が主張した

徹底抗戦に反対し、終戦に命を懸けた姿が描かれます。

これを読むと、戦争というものは始めてしまうと、

終わらせるもの至難の業ということに気づかされます。

朝鮮戦争もしかりといえます。

何故そんな本を読んだかというと、日本の繁栄は、

終戦後の努力もありますが、終戦に向けた先人の

苦労が実って実現したことを追体験したかったからです。

前置きが長くなりましたが、詩人の言葉は、

「あとに残る者の心の中に生きることができれば、

死なない。」

というものです。

60台も後半になると、自分の心に残る者の多くは、

すでにこの世にいません。

自分もあと何年生きるのかわかりません。

そんなとき、この言葉は心に響きます。

生きるということは、生物的な生と精神的な生が

あり、ひとは時として生物的な生を延長しようと

しますが限りがあります。

しかし、精神的な生は、自分が何を考え何をしたか

を記憶にとどめて置くことで、ひとからひとへ

伝承していく。

米内光政氏の精神的な生は、阿川さんの本を読んで、

自分の心に宿る。

老子にも「死而不亡者寿」(第33章)がある。

「死して亡びざる者は寿(いのちながし)」

死んでもほろびない人は、心に宿る(live in hearts)

人なんですね。

米内光政氏の生き方が、心に宿る生き方であるのを

小説で体験できます。

 

有無相生

 

 

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