◆老子小話 VOL
915 (2018.05.26配信)
猪(しし)ねらふ肱にすがる小てふ哉
(小林一茶)
今回は一茶の句をお届けします。
一茶のやさしい心が溢れる句です。
いのししを狙ってじっと銃をかまえる猟師。
その肱(かいな)に小さな蝶が留まっている。
かいなは肩からひじまでの間、あるいは肩から
手首までの間といいますから、結局腕のどこか。
そこに小さな蝶が留まっている。
時間は一瞬止まっている。
その光景を見て、蝶がすがってみえるのが一茶の
やさしい心。
小さなからだの蝶が撃つのをやめてとすがる。
日焼けしたたくましい猟師の腕の上ですがる。
蝶を見て緊張が緩み、思わず狙いをはずしそうです。
小さな蝶の命が大きなししの命を救うかもしれない。
17文字がこの一瞬のドラマを描いてみせる。
小さな命でも立派に気持ちを主張し、救いをもたらす。
何気ない自然の光景から心のメッセージを受け取る。
それができるのはやさしい心の持ち主です。
この句をよむと、自然と心がほっこりしてきます。
有無相生