老子小話 VOL 915 (2018.05.26配信)

猪(しし)ねらふ肱にすがる小てふ哉

(小林一茶)

 

今回は一茶の句をお届けします。

一茶のやさしい心が溢れる句です。

いのししを狙ってじっと銃をかまえる猟師。

その肱(かいな)に小さな蝶が留まっている。

かいなは肩からひじまでの間、あるいは肩から

手首までの間といいますから、結局腕のどこか。

そこに小さな蝶が留まっている。

時間は一瞬止まっている。

その光景を見て、蝶がすがってみえるのが一茶の

やさしい心。

小さなからだの蝶が撃つのをやめてとすがる。

日焼けしたたくましい猟師の腕の上ですがる。

蝶を見て緊張が緩み、思わず狙いをはずしそうです。

小さな蝶の命が大きなししの命を救うかもしれない。

17文字がこの一瞬のドラマを描いてみせる。

小さな命でも立派に気持ちを主張し、救いをもたらす。

何気ない自然の光景から心のメッセージを受け取る。

それができるのはやさしい心の持ち主です。

この句をよむと、自然と心がほっこりしてきます。

 

有無相生

 

 

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