老子小話 VOL 891 (2017.12.09配信)

魚鳥の心は知らず年わすれ

(芭蕉)

 

新たな年を迎えるにあたり、一年の苦労を忘れる

のが年忘れです。

芭蕉の時代から、そんな催しがあったようです。

「魚や鳥の心はわからない」とはどういう意味

でしょうか。

鴨長明の「方丈記」に、

「魚は水に飽かず、魚にあらざればその心を

いかでか知らむ。

鳥は林をねがふ、鳥にあらざればその心をしらず。」

とあり、

魚や鳥の心を知らなければ、魚が水に飽きず、鳥が

森を好む理由はわからない。

閑居生活も同じ事で、実際住んでみなければ、その

味を知ることはできないと言います。

芭蕉も老荘ファンですから、魚や鳥と同化して、

自然に溶け込むことで、自然のありがたさを悟ろう

とします。

しかし、年の暮くらいは、魚や鳥の心は忘れて、

忘年会を楽しみたいと詠んでいます。

俳句の基本は連句ですから、親しい仲間が集まって

五七五の後に七七をつなげ、さらに五七五を加えて

趣きを変化させていく句会をあちこちでやります。

忘年会は年末の句会のようなもので、閑居暮らし

を一時離れて、仲間と一緒に年忘れしたい気持ちを

込めています。

創作活動は、共同作業の中でレベルアップします。

自分と異なる視点が加わるので、らせん階段を

登るように、高次元から全体が見渡せるように

なります。

仲間との再会で芭蕉の心が打ち解ける様子が

「魚鳥の心は知らず」に見えませんか。

物事を真正面から見つめるのではなく、斜めから

見つめると息苦しさが抜けるかもしれません。

年の暮の慌しい時は、この姿勢が必要に思えます。

 

有無相生

 

 

戻る