◆老子小話 VOL
888 (2017.11.18配信)
形兵之極、至於無形。
(孫子、虚実篇第六)
兵を形(あらわ)すの極は、無形に至る。
今回は孫子から最強の軍の形の話をお届けします。
孫子はひたすら勝つための心得を考え、孫子兵法に
まとめました。
戦うには兵隊(軍)が必要で、その軍の形の究極は
無形であるといいます。
無形とははっきりした形がないことで、とらえどころ
がありません。
スパイを潜り込ませても、どこに中枢があるかわからず、
どこを攻撃すればダメージが大きいかわかりません。
どんな優れた戦略家も作戦の立てようがありません。
味方ですら、どのようにして勝ったのかわからない。
そんな形が可能かというと、今の情報社会がそのお手本です。
昔は、情報が一箇所に集中していて、それを周囲に発信して
いました。新聞やTVのメディアがその役割を負いました。
しかし今は、ネットの誰もが情報の発信源になっています。
YouTubeやFacebookなどSNSを利用して、情報が拡散します。
国民が国家と戦うために、無形の軍形で戦うしかありません。
アラブの民主化運動はその戦略で実現しました。
情報が一箇所に集中すると、国家は情報操作がやりやすくなり、
体制に都合が悪い情報を隠すようになります。
戦前の軍国日本がそうでした。
現代のように情報源の分散化が進むと、どの情報が本当の情報か
わからなくなるという不都合が出てきます。
情報の真偽を自分で確かめないといけない場面が増えます。
情報は至る所で氾濫していますが、その情報をふるいにかける
のは自分の判断です。
無形のネットは中枢がなく、どこを攻撃しても情報統制は不可能
です。中国のようにネット自体を遮断すれば可能でしょうが。
今問題になっているトランプ氏のロシア疑惑は、フェイク(偽)
情報を流して情報操作する問題を提起しています。
情報統制できない無形の長所を悪用する形です。
孫子の無形戦略は、軍形の無形により敵に攻撃目標を定めさせない
という強みがある反面、分散した軍は独自に戦局を判断し行動する
責任を負う弱みがあります。
戦局を中枢に報告して、中枢から行動命令(軍令)を待つという
有形の戦略は、中枢を攻撃すれば軍は総崩れになります。
桶狭間の戦いですね。
無形はどう動くかわからない不気味さがありますが、動いて勝つには、
前線の軍が、戦局情報の真偽を自分で判断し行動する責任を持つという
裏づけが必要ということがわかります。
孫子の兵法を情報戦略の側面から見ると、無形の弱みも見えました。
有無相生