老子小話 VOL 882 (2017.10.07配信)

All men contain several men inside them,

and most of us bounce from one self to another

without ever knowing who we are.

(Paul Auster, “The Brooklyn Follies”)

 

今年のノーベル文学賞はカズオ・イシグロ氏に

決まりました。

綾瀬はるかさんの「わたしを離さないで」を

楽しみに見ていたので、一度小説も読みたいと

思いながらそのままになっていて、氏の小説は

まだ読んでいません。

私のノーベル文学賞候補であるポール・オースター

の小説から今回の言葉を選んでみました。

「すべての人間の中には複数の人間がいる。

僕らの殆どは自分が何者かを知らず、ある自己から

別の自己へと飛び移っている。」

小説を読んでいると、作中の人物に自分を投影させて、

気がつかなかった自分に気がつくことがある。

自分が知っている自己は、自分の中の複数の自己の

ひとつに過ぎない。

複数の自己の使い分けは毎日やっている。

家ではお父さんや夫の顔、外に出れば会社員や学生の顔、

家以外のプライベートでは、趣味を楽しむ仲間の顔がある。

その場その場で期待される自己を選んでいく。

すべてに対し同じ自己を貫ければ何も問題は起こらないが、

自己が自分の中でぶつかり合う場面がしばしば生じる。

どの自己も自分の一面だから自己矛盾が生じる。

小説はそんなぶつかり合いを描いてみせてくれる。

他人事で読んでいた物語が自分にもあてはまる。

カズオ・イシグロ氏の小説は、

“uncovered the abyss beneath our illusory sense of

connection with the world”

とノーベル文学賞選考委員が賞しています。

「世界とつながっているという我々の幻想の下に隠れる

深淵を暴いて見せた」

世界とつながれないから、人間は複数の自己を持たざるを得ない。

複数の自己を使い分け、もがきながら深淵の上を浮遊している。

ポール・オースター氏の言葉も、カズオ・イシグロ氏の目指す

ところと何かつながっているように思えます。

 

有無相生

 

 

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