老子小話 VOL 874 (2017.08.12配信)

世人直為物逆旅耳。

夫知遇而不知所不遇。

(荘子、知北遊篇)

 

世人はただ物の逆旅と為れるのみ。

それ遇うを知りて、遇わざるを知らず。

 

今回は久しぶりの荘子です。

逆旅(げきりょ)とは、旅の宿のこと。

世の人を宿屋とするなら、旅人は何でしょうか?

旅人はそこを通過する様々な物です。

物とは、人が生きている間に経験する事象で、

そこに喜びや悲しみを伴います。

事象の流れとは、その人の誕生に始まり、

家族と社会の恩恵を被りながら成長し、

成長の過程で喜怒哀楽を味わいます。

そしてよき伴侶とめぐり合い、また家庭を築き、

次世代にバトンタッチをし、死を迎えます。

事象の訪れは防ぐことはできず、その流れを

とどめておくこともできません。

実際に体験したものは知ることができるが、

体験しないことは知ることができません。

このことは非常に重要なことです。

実際に地震や津波に遇ってみると、その恐さは

一生忘れません。

原発の放射能汚染で故郷を追われないと、その

恐さを知ることはできません。

人類の最大の遺産は、原爆の恐ろしさを実体験した

ことです。

それを広島・長崎で2度も体験した日本の体験です。

アウシュビッツの体験はイスラエル建国という恵み

で報われました。

祖国を追われたユダヤ民族への同情と共感が、西欧

諸国に建国の同意をさせました。

しかし、日本の原爆の体験は核廃絶という恵みを

もたらしていません。

それどころか、日本国の意志として、核兵器禁止条約

に反対する立場を示している有様です。

核兵器開発をしている国は、放射能の恐さをデータで

理解するだけで、実体験として知りえていないのです。

一発どこに落とせば、何万人殺傷できるというデータで、

抑止力になると理解しているだけです。

日本が国として主張すべきことは、核の傘に入りながら

核兵器禁止条約に反対することでなく、核の傘自体が

無意味なことを実体験から世界に発信することだと思います。

核の傘の恩恵を一番感じているのは北朝鮮です。

核を持っているから、核保有国は軍事上何も手出しできない。

それを知っているから、トランプさんが何をつぶやいても

思い通りできる。

荘子さんの言葉「遇うを知りて、遇わざるを知らず」は、

被爆体験を世界平和に生かすも殺すも、日本国民の選択次第

だと語っているようです。

 

有無相生

 

 

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