老子小話 VOL 873 (2017.08.05配信)

夏河を越すうれしさよ手に草履

(蕪村)

 

暑い日が続きますが、ご機嫌いかがでしょうか。

今回は、暑中見舞いの句をお届けします。

蕪村のふるさとは、丹後の国与謝村。

丹後は現在の京都府で、与謝村は母親の故郷。

暑い中を洛中から与謝村を目指して歩きとおし、

足の裏は焼けるようにほてっていました。

与謝村も間近というとき、目の前の細川を

わたる足取りも軽快になります。

川の水の冷たさが足のほてりを癒し、長旅の疲れも

忘れてしまいます。

母のふるさとに早く着きたいという焦りも癒されます。

精神も肉体も、水の清涼さで清められます。

そこにじわっとうれしさがこみ上げてきます。

「手に草履」は、何を意味しているのでしょうか。

確かに草履が流されないように手に持つということも

あるかもしれません。

しかし、濡れた草履でふるさとを訪れたくないという

思いもあるでしょう。

ほてった足を水の清涼さで直接冷やしたいという思いも

あるかもしれません。

蕪村の画家としての構図も見て取れます。

夏河を手に草履をぶら下げながら足取り軽く渡るさま。

帰省する旅人のうれしさがその絵に溢れてきます。

蕪村の句はそれがそのまま絵になります。

まず頭に絵ができて、それを句にしているような感じ

がします。

たった18文字の中に、涼しさを心身に味わえるなんて、

素敵なことだと思いませんか。

 

有無相生

 

 

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