老子小話 VOL 872 (2017.07.29配信)

其安易持、其未兆易謀。

其脆易泮、其微易散。

爲之於未有,治之於未亂。

(老子、第六十四章)

 

その安きは持し易く、

そのいまだ兆さざるは謀り易く、

その脆きはとかし易く、

その微なるは散じ易し。

これを未だ有らざるになし、

これを未だ乱れざるに治む。

 

稲田防衛相が辞任表明しました。

南スーダンに派遣された自衛隊の

PKO部隊の日報から端を発した問題です。

日報には駐屯地域の近くで戦闘が起こった

と記されていました。

PKO部隊の派遣は後方支援だから危険地域

には派遣しないと政府は言ってきたので、

それと矛盾する事態が記録として残りました。

防衛省内ではそれをなかったことにしようと

日報の破棄を決めました。

ところが実際は電子データに日報は残っていた。

日報破棄は、防衛省の内閣に対する忖度でした。

内閣の発言と異なる証拠は消したほうがよいと

気を回しました。

しかし、廃棄措置の命令違反を犯した人がいたため、

大臣の立場が危うくなりました。

防衛省内の重要な決定は大臣が把握していなければ

なりませんが、その報告が大臣の耳に残らなかった

という結果が特別防衛監察から出されました。

事の重大さを大臣は認識していなかったというのが

辞任の理由です。監督責任の問題ではありません。

こんなことが何故起こるのか?

老子の今回の教え、

「事が動かないうちはまだコントロールできる。

兆候が現れないうちはまだ処置できる。

もろいうちは溶かしやすい。

かすかなうちは消しやすい。

まだ何でもないうちに問題を処理し、

まだ混乱にならないうちにかたをつける。」

を守らなかったからだと言えます。

都合の悪いことを隠すようなことをせず、

日報を保管して情報公開請求に応じ、

堂々とその扱いについて見解を明らかにする。

これを稲田さんが防衛省を代表し決定すれば、

事は大きくなる前に消えていたはずです。

それをぼやっとしているうちに部下の忖度が

働き、破棄命令違反を誘いました。

破棄命令違反は、省の隠蔽体質に我慢ならない

内部告発なので批判することはできません。

部下の忖度に激怒するくらいの迫力がないと

大臣は務まりません。

会社なら忖度が昇進につながるので、忖度だらけ

ですが、国防をつかさどる軍隊組織の防衛省で、

忖度が規律の上に来るのは致命傷です。

規律を徹底させるのが大臣の役割とすれば、

最初から稲田元大臣は役違いだったことになります。

「事が大きくなる前に根を摘む」という言葉が、

2000年以上前の老子に書かれているわけなので、

人類は、おおごとになって慌てる歴史を今なお

繰り返しているようです。

 

有無相生

 

 

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