◆老子小話 VOL
870 (2017.07.15配信)
よい感官はよいものを感じ、
悪い感官はいいものを悪く感ずる。
(宮澤賢治、「ビジテリアン大祭」)
宮澤賢治といえば「銀河鉄道の夜」ですが、
「銀河鉄道の夜」をまともに読んだことが
なかったので、文庫本を読み始めました。
その最後のところに、今で言うベジタリアン
がニューファンドランド島に集結して大会
を開催するというお話がでてきます。
その大会に、肉食を支持する一派を招待し、
激論を交わす設定になっています。
ベジタリアンにも、同情派と予防派の二派ある
というのが、今に通じる所です。
同情派は生き物の命を奪って生きることを
できるだけ避けるという一派、予防派は病気予防
のために肉食を避けるという一派。
議論が論理的かつ科学的かつ多面的であるので、
賢治さんの手腕を堪能することができます。
今回の言葉は、食物の味は食べる対象よりは、それを
味わう感覚器官の精粗で決まるという文脈で出てきます。
感覚器官が静寂になっていると、パンを食べていても、
素材の微妙な美味しさを感じることができる。
水を飲んでも、石灰の入った水、炭酸の水、川の柔らかい
水の違いを静かに味わうことができる。
他方、感覚器官が粗くなるパンの味がわからなくなって、
いろいろ添加物が増えてくる。
肉には味わいがあるが菜っ葉は味気ないという肉食派の主張
に対する反論でした。
どんな些細なことでも、それに対する感覚器官が静寂なら
そのよさ(価値)を見出すことができる。
荘子に天籟の話がでてきます。
自然の声(天籟)を聞き取るには、感覚器官を静寂にする。
食べ物の素材のよさを味わうというのも、天籟を聞くことの
一つです。
いろんな調味料をかけるのは、感覚を麻痺させる一因です。
賢治さんの言葉は、対象のよさは受け取る側の感官の精粗
で決まるという普遍的な真理を教えてくれます。
有無相生