◆老子小話 VOL
860 (2017.05.06配信)
知止所以不殆。
(老子、第32章)
止まることを知らば、
殆かざるゆえんなり。
連休に飽きてきた方もおられると思います。
今回の言葉を何にしようかと、守屋洋さんの
「中国人の発想 80の知恵」(PHP文庫)を
めくっていたとき、この言葉に出会いました。
「老子」の中で引用されていることわざです。
「危険を避けるには止まること知るべし」
守屋さんは、「三国志」の曹操のすぐれた点を
「止まることを知っていた」とする魯迅の
話を出してこの言葉を挙げている。
形勢が悪いときは、あえて進撃せず撤退する
ことも戦略のうちで、危険を避けることになる。
山登りでも同じことが言える。
エベレスト登頂間近で天候が悪くなり、登頂を
断念する場合がそれである。
無理に登坂して登頂に成功するも、帰りに滑落し
命を落とすことも多い。
エベレストだけでなく雪山登山でも同じ事故はある。
登頂のチャンスを目前に撤退するのは残念至極。
でも命を落とせば次の挑戦はない。
止まることは、湧き上がる欲求に歯止めをかける
ことでもある。
それは、欲求の充足の先にある危険を察知し、
身の程を知ることである。
曹操の時代は、戦場での判断ミスは死を意味する。
今の時代なら、投資やギャンブルにおける判断ミス
だから、最悪、倒産や自己破産である。
NHK番組「100分de名著」では「三国志」が始まり、
名将や名士がどのように生き残りをかけて「止まる」
か、その様子が見えるかもしれません。
老子の言葉も、守屋さんの提示する実例を読むと、
説得力が増してきます。
有無相生