老子小話 VOL 849 (2017.02.18配信)

遠からず君はあらゆるものを忘れ、

遠からずあらゆるものは

君を忘れてしまうだろう。

(マルクス・アウレリウス、「自省録」)

 

今回は第16代ローマ皇帝の言葉をお届けします。

軍事よりも学問を好んだ方で、哲学的な言葉を

「自省録」に残し、それが老荘的な味わいを

与えるので興味が湧きます。

高齢化社会にぴったりの言葉ではないでしょうか。

実感として物忘れが多くなり、いずれあらゆるもの

を忘れるだろうとちょっと不安になる。

忘れるということは、過去の記憶がなくなること。

記憶に従って自分の家に帰れるが、記憶を失うと

簡単に帰れなくなる。

自分の住所を紙に書いて、それを人に聞きながら

やっとたどり着く。

でも、忘れることは不便なことばかりかというと、

便利な面もある。

苦しかったことや辛かった記憶が頭から離れ、

前向きに生きられるということもある。

忘れることは過去の記憶に頼ることなく、

現在を必死に生きることを余儀なくする。

そもそも自分が忘れないようにしても、

まわりの者がいずれ自分を忘れるのが常である。

だから、彼らと自分の繋がりは現在しかない。

今この一瞬を大切にする一期一会につながる。

「自省録」の別のページで、「現在の瞬間が君の

生涯の終局であるかのように生きねばならない」

という。

この考えは、余生の短い高齢者にはじ〜んと来る。

過去の記憶はいずれ自分からも相手からも消える。

自分がボケるか配偶者がボケるかどちらにしても、

ボケる前に今をどう生きるかが大事になる。

 

有無相生

 

 

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