◆老子小話 VOL
837 (2016.11.26配信)
生海鼠にも鍼こころむる書生哉
(与謝蕪村)
生海鼠(なまこ)は冬の季語ということで、
蕪村の句をお届けします。
なまこと言えば、沖縄の海の底に見られる
グロテスクな生き物を思い出します。
なまこは中華料理の食材や漢方薬にも利用され、
見掛けによらず役に立っています。
蕪村の句では、このなまこに鍼灸師の見習いが
はりを打とうとしている様子を描きます。
なまこのつぼがどこにあるのかわかるはずは
ありません。
しかしまだ習いたてなので、とにかく必死に
相手の反応を見ながら、腕を上げようとします。
このひた向きさが蕪村の心を打ちます。
俳句は俳諧とも呼ばれ、現実をまっすぐ見ずに
斜めから見るところに面白さが出ます。
どこにつぼがあるかまだはっきりわからない書生。
したがって、思いつくまま打って、お客の反応を
聞いてまた打ち直す光景がなまこに挑むように見える
とも受け取れます。
この句を見て、新大統領トランプ氏と安倍首相の
駆け引きに似ているなと思いました。
トランプ氏は政治経験が全く無く、何を考えているか
全くわからない「なまこ」のような存在です。
選挙前は、国境に壁を作るとか、日本に原爆を持たせるとか
過激発言をしましたが、今はどんな政策を実行するか未知数です。
TPP離脱は宣言しましたが、それにより国民がどのような不利益
を被るかは言及せず、政策は片手落ちです。
安倍首相は急遽トランプ氏と会談し、信頼の置けるリーダーと
述べました。
しかし1回の会談で相手がわかるはずもなく、まだトランプ氏の
つぼはつかめていません。
依然として、氏は「なまこ」の存在のままで、そのなまこに対して、
鍼灸師の見習いの安倍首相が必死につぼを見つけようとしている
のが現実の姿です。
トランプ氏から見れば、信頼関係を甘く見てもらっちゃ困るという
のが真意です。1回の会談で胸のうちがわかるわけ無いだろうと。
安全保障や経済の問題も、いろんな側面からはりを打ち、相手の
反応を見て修正をかけながら歩み寄るという場面を通して、信頼を
築けるのでしょう。
蕪村の句は、一生懸命なまこにはりを試みる安倍さんに応援している
ように思えます。
有無相生