老子小話 VOL 834 (2016.11.05配信)

大成若欠、其用不弊。

大盈若沖、其用不窮。

(老子、第45章)

 

大成は欠くるがごとく、

其の用はすたれず。

大盈はむなしきがごとく、

其の用は窮まらず。

 

またまた老子です。

画家若冲の名前の由来は老子です。

若冲の「冲」は、深くてむなしいという意味が

あり、「沖」の俗字です。

「完璧なものはどこか欠けているようでも、

その働きは衰えない。

中が満たされているものは、空っぽのようでも、

その働きは尽きない。」

日本人が老子を好むのは、日本文化がその心を

受け継いでいるためかもしれません。

水墨画でも日本庭園でも、素材となる自然に

すべて人間の手を及ばさないで、自然と人工

調和を残す趣向です。

水墨画なら、紙の素地を生かして、見る人に

いろいろイメージを想像させる働きを与えます。

日本庭園も目前の人工的な造園だけに頼らず、

背景となる苔や竹林も自然のままの形で残す。

思想は中国に学びましたが、その文化への展開は

独自のものがあります。

老子から名前をとった若冲の画は、画面全体に

所狭しと描きこんでいます。

一見西洋画に近いような描き方です。

でも「升目描き」といって、絵の具を塗りたくる

のではなく、升目に分割して、升目と升目の間の

空間を残して画面を構成している。

ミクロな空っぽを利用して色調を創造するところは、

水墨画とは異なる空っぽの効用です。

自動車の運転も、自動運転といって人間を介さずに

運転を機械に任せる流れが生まれています。

センサ技術と人工知能が完璧な安全運転を支える

試みで、経済発展の原動力と考えられています。

人間には運転ミスが多いのは現実です。

高齢者が高速を逆走したり、子供の通学通園の列に

トラックが突っ込んだり、毎日報道されます。

通学路では強制的にスピードダウンさせたり、

逆走路で自動停止させたり、自動運転になれば、

今までの事故の多くが防止される可能性があります。

しかし、完璧な運転が自動運転とするのは危険です。

人間が暴走するように機械も暴走します。

100%安全とされてきた原発も冷却水が滞れば、水素爆発

を引き起こします。

本当に完璧なのは、どこか欠けているように見えるもの。

日本の家屋は木造が基本で、障子に畳が基本です。

その素材も時間が経てば痛み、修復しなければ持ちません。

どう考えても欠点だらけです。

でも地震のときは、石の家より丈夫なようです。

完璧というのは、何かを棄てて何かを生かすもののようです。

何を棄てるかは、何を大切にするかを決めることです。

自然と人間の融和が老子の大切にするものと考えると、

欠けるものが増えてきても平常心は保てます。

 

有無相生

 

 

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