老子小話 VOL 828 (2016.09.24配信)

人間は負けるように造られてはいないんだ。

そりゃ、人間は殺されるかもしれない。

けれど負けはしないんだ。

(へミングウェイ、「老人と海」)

 

へミングウェイの「老人と海」を

読み返してみました。

英語で言うと、

Man is not made for defeat.

A man can be destroyed but not defeated.

中学英語で十分書ける文ですが、意味は深い。

老人は海で長時間の格闘の末、大きな獲物を

捕まえるが、鮫が襲ってきて、その獲物を

食いちぎる。

老人はナイフとこん棒とオールで応戦する

ものの皆奪われ死に目にあう。

大自然の中で生きるということは、生と生の

闘いである。

魚を殺すことは、自分が食うため、あるいは

多くの人間を養うためと言っても罪は罪。

漁師に生まれたからは、その罪を背負う。

鮫もまた生きるために、怖い人間と闘いながら、

脳天をナイフでえぐられても、老人の獲物に

食いつきながら海に沈んでいく。

大自然では、負けることが死を意味する。

人間も鮫も負けるようには造られていない。

運悪く殺されるかもしれないが、最期まで

生きるために闘う。

この物語は人間と魚の闘いの話だが、人間と

病魔との闘いにおいても同じことがいえる。

人間の生を支える細胞も、外敵の病原菌を

殺すために免疫システムを発動する。

免疫細胞も負けるようには造られていない。

病原菌が勝って運悪く死ぬことがあっても、

最後まで生を支えようと奮闘する。

人間の内なる大自然においても、この言葉は

意味を持つ。

人間の素晴らしい所は、生きる力を支える知恵

を持っている点だと思う。

ガンとの闘いでいえば、薬や放射線治療で、

ガンの進行を遅らせたり、死滅させたりできる。

人間自ら持つ免疫力を支える技術である。

とは言っても、最後の最後は、負けない気力

を持つことである。

へミングウェイの言葉は、大自然の全ての生物

に当てはまるが、人間は負けないための気力と

知恵を持っていることを忘れてはいけない。

 

有無相生

 

 

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