老子小話 VOL 825 (2016.09.03配信)

秋来ぬと目にはさやかに見えねども 

風の音にぞおどろかれぬる

(藤原敏行, 古今集)

 

あっという間に九月に入りました。

まだ残暑が続きますが、秋の気配を感じる

この頃ではないでしょうか。

今回は、平安時代の歌人が詠んだ歌をお届けします。

「秋が来ていると目にははっきり見えないけれど、

風の音で秋の訪れを感じた。」

藤原敏行さんはどんな風の音を聞いたのでしょうか。

蒸し暑い夜が夏の夜ならば、そこに涼しい風が吹くと

秋の夜に変わりつつあるのを感じるかもしれません。

私は虫の音で秋を感じます。

昼間はつくつくぼうしが鳴いていても、

夜になると草むらから鈴虫の声が聞こえると、

秋になったなあと感じます。

風は音を運ぶので、藤原さんを驚かせた風の音は

虫の声を運ぶ風だったのかもしれません。

目に見えないものを五感で感じるのは、

自然の恩恵を肌で知るために大切なことです。

日が短くなるとか、雲の形が変わるとか、

湿度が低くなるとか、風の香りや音で、

秋の気配は感じられます。

サンマに脂がのり、梨が美味しくなるのも

秋ですね。

皆様にとって秋の気配を感じるものは何でしょうか?

藤原さんの歌の面白さは、「風の音」です。

どんな音なのか考えさせる所です。

風が運ぶ音だったり、風が運ぶ映像だったり、

風が運ぶ香りだったり、五感で読める秋の訪れを

含んだ、「風の音」のようです。

平安時代の人々も現代の我々も、感性の点では、

なんら変わることのない日本人だと教えてくれた

歌でした。

 

有無相生

 

 

戻る