老子小話 VOL 824 (2016.08.27配信)

The lamentable change is from the best;

The worst returns to laughter.

(William Shakespeare, King Lear)

 

人生の悲哀は天辺からの転落にある。

どん底を極めれば笑いに還るほかは無い。

 

夏の終わりに、「リア王」を読みました。

もちろん、福田恆存氏の翻訳ですが、

今回の言葉は原文でどういうのかなと思い、

調べてみました。

訳の素晴らしさに感動するとともに、

原文はもっと直接的で驚きますが、

直訳すれば、

「嘆かわしい変化は絶頂からの転落で、

最悪の変化は笑いに還る。」

「リア王」第4幕第1場のエドガーのセリフです。

この言葉の前に、

「人間どん底に落ちれば、あるのは希望だけで、

恐れはない」があり、恐れがないどころか笑いに

変わるところが、ほっとする所です。

笑いはひとを元気にさせます。

元気になると笑えるようになる。

どん底のとき、笑いは自粛するのが普通です。

しかし、笑いによって元気になるのも事実です。

シェイクスピアの言葉は辛らつですが、

真理をつかんでいるので長く愛されていると思います。

老荘的にこの真実を見ると、

荘子の奥さんが死んだとき、荘子は泣かずに

盆をたたいて歌っていた。

形のないものから生まれて、形のないものに

還っていくのが悲しいことか、この自然の流れ

の前に、感動するしかない。

そんな話が、荘子至楽篇に載っています。

一方老子は、「飄風不終朝、驟雨不終日。」と、

強風も豪雨も長くは続かない。

大自然においても、どん底が続くことはないので、

ひとがどん底に落ち込んでも嘆くなという。

また、「禍は福の倚る所、福は禍の倚る所」で、

どん底は頂点(天辺)の始まり、頂点はどん底の

始まりだから、頂点にいてもどん底にいても、

一喜一憂せずに常に穏やかな心地を保てという。

シェイクスピアの「笑い」は、希望の「笑い」

であり、穏やかな心地の「笑い」に思えます。

まるで仏像が見せるアルカイックスマイルの

ような「笑い」かもしれません。

どん底にいると、仏様の心穏やかな笑いが

身にしみてありがたく感じられます。

シェイクスピアの言葉から老荘を経て、

仏様の笑いまでたどり着きました。

ことばの意味を考えるのは、心の旅でもあります。

 

有無相生

 

 

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