老子小話 VOL 816 (2016.07.02配信)

端居して妻子を避る暑かな

(与謝蕪村)

 

まだ冷房もない時代に夏の暑さを詠んだ

蕪村の句をお届けします。

狭い居間で、妻と子供たちがひしめいて

暮らしている。

夏になると暑さもひとしおで、輪をかけて、

お互いの皮膚が発する熱を感じるまでになる。

たまらず、狭い部屋の端っこに逃げて、

その熱だけでも避けようとする。

思わず苦笑が漏れる句に思えませんか。

ペットの猫でも犬でも、夏は冷たい床を求めて、

家の中をさまよいます。

私の子供の時代も、クーラーも網戸もない

家だったので、夏の夜は蚊取り線香を焚いて、

部屋の隅にからだを移し、暑さを凌ぎました。

だから蕪村の句は身近に感じます。

「端居」が季語になっていますが、「端居」を

辞書で引くと、「風通しのよい縁側に出る」と

あります。

縁側のあるような広い家ではこの句の感じは

つかめず、狭い部屋に押し込められたままで、

暑さを凌ぐ方法を「端居」に見つけたので、

「部屋の隅に身を寄せる」方があっている

ようです。

電車の中でも、夏は隣の人と皮膚が触れ合う

機会が多く、互いの熱を感じ「端居」を求める

ようになります。

ひとの少ない空間を求めて、端の席に移ります。

そんな時、この蕪村の句を思い出してください。

 

有無相生

 

 

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