老子小話 VOL 814 (2016.06.18配信)

夜光の珠も暗中に置けば光彩を放つが、

白日の下に曝せば宝石の魅力を失う如く、

陰翳の作用を離れて美はないと思う。

(谷崎潤一郎、「陰翳礼賛」)

 

今回は、光と陰が創る美を日本独自の美で

あると論じた谷崎潤一郎氏のお言葉を

お送りします。

闇の中で光を放つ石を白日に曝せば、

単なる石ころに見えてしまうが、

闇の中におぼろげに漂う怪しい輝きが

人間の心を虜にする美しさだという。

何でもかんでも表に見えてしまうと、

なぜか薄っぺらに見えてくる。

薄暗い中で見えない部分を想像して補う

余地があって始めて奥ゆかしさが生まれ、

謎の美しさを感じることができる。

まるで源氏物語の中の男女が感じる美を

話すようだが、今の時代にも通じる。

高解像テレビで、強い照明に照らされた女優の

顔を見ると、昔だったら見えなかった皺や染みや

毛穴まで見えてしまう。

頭の中で補う余地がないほど、光のもとですべてが

曝されると美しいかというとそうではなく

光と陰が織り成す輪郭に美しさが現れる。

丁度、水墨画で墨を塗ることで陰をつけ、

墨がのらない空白が光を放つように。

人間の魅力についても同じことが言える。

光が長所なら、陰は短所。

長所ばっかりが目立つ人間は魅力がない。

短所の中でこそ、長所が光ってくる。

すべてが光り輝いているものほど、

内側に矛盾を含んでいる。

光が成功なら、陰は挫折。

成功が光を放つのは、挫折の連続という陰の部分が

輪郭をつけてくれるからで、挫折なしの成功は、

ひとの心を打たない。

美しい人生とは何かを考えるとき、谷崎先生の言葉は、

多分に味わった陰を以って光が見えてくれると教える。

陰は無用ではなく、用を為す。

希望という光を見せてくれる節穴の役目を果たしてくれる。

 

有無相生

 

 

戻る