◆老子小話 VOL
812 (2016.06.04配信)
盛衰を以って、人の善悪は沙汰されぬ事なり。
盛衰は天然の事なり。
善悪は人の道なり。
されど、教訓の為には盛衰を以って云うなり。
(葉隠)
ブックオフに売る文庫本を整理していたら、
三島由紀夫氏の「葉隠入門」を見つけ、
思いとどまって、言葉を探した。
悪は滅びるなんて世に言うけど、そんなことはない。
「盛衰によっては、その人の善悪を論じられない。
盛衰は自然のなりゆきで、善悪は人の判断による。
でも教訓のために、盛衰で善い悪いをいう。」
「天才」で再評価される田中角栄元総理。
金の力で総理までのし上がり、金の力で権力を追われた
政治家だったが、日中国交正常化や列島改造論など、
スケールの大きな政治をやったことで評価も高い。
ロッキード事件で足元をすくわれたのは運が悪かった。
金は道具であり、強いリーダーシップがなければ、
政治の偉業は達せられない。
もう一方の政治家は、金の力を知りつつも、金の
使い方を知らないスケールの小さい政治家である。
彼は、私用の出費まで公費を使っている。
この政治家の盛衰とて、彼の善悪で決まらない。
他人が自分を悪いと言っても、辞めるかどうかは
自分の判断である。
自分で自分が悪いと決められないから、第三者の
精査が必要になる。
第三者が悪いと判断しても、辞めずに職務で功績
をあげてマイナスをプラスに転じることもできる。
いくら善行を積んだとて運が悪ければ命を落とす。
逆に悪行を尽くしても運がよければ生きのびる。
そんな現実を子に教えるのは酷で、教育的には、
善行はいつか報われると教えることにする。
宗教的には、善行を積んで死んでも、天国に行ける
チャンスがあり、善行は無駄にならない。
悪行を犯しても神に許しを請う。
人間の考えはこのようにポジティブであり、他人の
悪行を見てずるいと感じるのは余計なお世話である。
人の道は公平を望み、天の道は公平でないからである。
葉隠の言葉は当然過ぎるが、老荘的生き方にとって
心すべき言葉といえそうです。
有無相生