◆老子小話 VOL
808 (2016.05.07配信)
愛撫は人の心をとろかしてしまう。
疲れやわだかまりが溶け、
人と人と、人と世界が融合してしまう、
至福の状態と言うことができる。
(河合隼雄「猫だましい」)
「猫だましい」は、猫を扱った文学作品を紹介して、
猫の目から見た、たましいの問題を読み解きます。
今回は、この文庫本よりお言葉を頂戴しました。
猫の首のあたりをなでると、猫はごろごろと
喉を鳴らし、気持ちよさそうである。
その様子を見て、人の心もとろけてしまう。
猫とふたりだけの世界に溶け込むことができる。
人と人がこれほどまでに我を忘れて、ひとつの
世界に溶け込むことがあろうかと河合先生は言う。
猫は犬と違って献身的ではなく、自分の確固とした
生活を持っているだけに、撫でる人に身も心も許して、
悦に入る姿は人の心をとろかしてしまう。
競争社会にがんじがらめになった人間は、
勝つか負けるか、支配するか支配されるかで
すべてをみる癖がついてしまっている。
男女関係においても、そんなふうだと、
ふたりでいるだけでほっとする気持ちは
生まれるはずはなく、どこかぎすぎすした
人間関係になる。
一番幸福だと感じるのはどんなときか?と聞かれて、
心がとろけた状態が頭に浮かんだなら、たましいは
健全なのかなと思ってしまった。
老子第22章でいうところの、「惚たり恍たり」の心境で、
心がうっとりとして何が幸せかはっきり言えないが、
ほのかな充足感で満たされている。
生けるものどうしがたましいを通わせるときが
その充足感を与えてくれるのかもしれない。
有無相生