老子小話 VOL 791 (2016.01.09配信)

萬物負陰而抱陽。

冲気以為和。

(老子、第42章)

 

万物は陰を負いて陽を抱き、

冲気以って和を為す。

 

老子思想を詩で表現された加島祥造氏が

昨年末旅立たれました。

伊那谷に住み自然の声を聞きながら生を楽しむ。

そんな氏の生き方が、老子そのものでした。

今回は、「老子」の万物論をお届けします。

眼に見えないものを陰、眼に見えるものを陽と

するなら、自然界のどんなものでもその両方を

備える。両方を備えているから調和が保たれる。

両方をもったものを「冲気」といいます。

我々の眼には、宇宙は星とその間の空間から

成り立っているように見える。

しかし、無の空間に質量の大きいダークマター(暗黒物質)

が存在することで、宇宙は調和が保たれているというのが、

最新の宇宙論です。

植物に眼を転じれば、植物は昼に光合成によりエネルギー

を蓄え、夜は細胞分裂して成長するそうです。

成長により枝葉を広げ、光合成をする領域を広げ、成長を

促進する。陰と陽の両者により、生を得ているといえます。

人間を見ると、陰は心配事や悩みや後悔であり、

陽は感動や喜びや安らぎと考えられる。

どんな人間でも、悩みを抱えながら、それを克服しようと

何かに打ち込んで、かすかな生きる喜びを得ている。

陰を抱えているから、陽の有り難さが身にしみる。

陰をなくそうと必死に頑張るから陰はますます増える。

陰は避けられないものとして陽を生み出し、バランスを

取りながら生きるというのが老子の生き方のようです。

老子の偉いところは、陽も陰も始めはそもそも無かった

と考えるところです。

赤ん坊には悩みごとなどなく、成長するにつれて

知恵をつけ、他と比べるようになって悩みが生まれる。

赤ん坊にすぐに戻ることはできないので、「冲気」で

和を生むことが解と唱えます。

老人になってボケてくると、自然に赤ん坊に戻ります。

だからボケることも悩まなくていいわけです。

このように老子の考えは、陽か陰のいずれを信じるという

一神教ではなく、「冲気」の混成の中に和を見出すという、

多元の教えであり、これからの世に欠かせない見方の

ように思われます。

 

有無相生

 

 

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