老子小話 VOL 787 (2015.12.12配信)

西吹けば東にたまる落葉かな

(与謝蕪村)

 

庭の木々も色づき、落ち葉もたまっています。

今回お届けするのは、蕪村の観察眼を表わす句です。

西から寒風が吹き、たまっていた落葉が

東にたまるという当たり前のような句です。

しかし、落葉のゆくえをじっと眺めている人が

どれだけいるでしょうか?

蕪村は、玄関先であるいは門前で落葉を掃いている人

を眺めています。

きれいに掃き集めた落ち葉が、木枯らしでまた散らかる。

冬の気圧配置は、西高東低です。

西に高気圧、東に低気圧が居座ります。

気圧の高いところから、低いほうに空気が流れ、

西から寒風が吹き込みます。

西から風が吹けば、落ち葉は東にたまる。

蕪村の眼は科学的です。

落ち葉を掃いていた人はもうその場には

いないかもしれません。

蕪村の眼は、紅葉を楽しませてくれた落ち葉に

感謝している眼かもしれません。

一仕事終えた葉が、樹から離れ落ちて、

風の吹くままに流される。

そんな落ち葉に温かい眼を向けています。

蕪村は、落ち葉にわが身を見たのかもしれません。

一仕事終えた後、風吹くままに気ままに暮らす自分を。

そんな落ち葉にご苦労さんと呼びかけているようです。

落葉をただ見るのではなく、紅葉から落葉、そして

落ちた後のゆくえまで、じっと眺める時間を感じます。

当たり前のような句でも生の有り難さを表現できるのは、

俳句の素晴らしさです。

 

有無相生

 

 

戻る