◆老子小話 VOL
782 (2015.11.07配信)
きみがここにいるのはね、
きみ自身のためなんだ。
(ルイス・サッカー、”HOLES”)
全米でミリオン・セラーになった、”HOLES”
の翻訳本(講談社文庫)から拾った言葉です。
逆境に追い込まれた少年たちが、それを乗りこえる
お話ですが、少年のご先祖様の体験と今の状況が
つながっており、何とも不思議な物語です。
ぬれぎぬを着せられた“原始人”が、更生施設に収監され
干上がった湖で穴掘りをさせられている。
指導員が穴掘りの理由を説明するシーンでの言葉です。
穴掘りをして強靭な精神と体力をつけて社会復帰に
備えさせるというのは表向きの理由。
裏の理由はご先祖様が埋めた宝物を少年に掘らせるためで、
指導員はまことしやかに、この言葉を吐く。
「君が置かれた逆境は、君自身の未来のためにある。」
逆境にいる人間がこの言葉を聞くとき、乗りこえる勇気を
言葉から受け取る。
主人公“原始人”は、無実の罪で穴掘りという逆境に
追い込まれたので、素直にはこの言葉を受け取れない。
しかし友の“ゼロ”と助け合って、ご先祖にも救われて、
逆境を乗りこえていく。
逆境に置かれた不条理をうらむのは過去を振り返る生き方。
逆境を踏み台にして希望をつなぐのは未来を見る生き方。
どちらが自分のためか、いうまでもありません。
思惑の違った言葉でも、それをどのように受け取るかで、
未来が違ってくるというのが、この小説の面白さのようです。
読んだ後に、なぜか勇気が湧いてきます。
穴は空洞であり、空洞に流れ込む空気により音楽が奏でられます。
穴の形と流れ込む空気によって奏でる音色は異なります。
穴の形をどのように掘るのか、きみ次第。
穴のなかにいるきみは、未来の音楽を聞くためにいる。
この言葉はそう語りかけているようです。
有無相生