老子小話 VOL 781 (2015.10.31配信)

いわずに おれなくなる

ことばでしか いえないからだ

 

いわずに おれなくなる

ことばでは いいきれないからだ

 

いわずに おれなくなる

ひとりでは 生きられないからだ

 

いわずに おれなくなる

ひとりでしか 生きられないからだ

(まどみちお、「いのちのうた」)

 

まどみちお氏の文庫「いのちのうた」(ハルキ文庫)

に収められている詩をお届けします。

芭蕉の句「秋深き 隣は何を するひとぞ」

に呼応する詩だと思います。

ことばというのはどうして生み出されたのか

というと、まどさんの詩に行き着く。

孤独の人が晩秋の寂しさから隣人に語りかける

ことばがなぜそのような句になるのかというと、

まどさんの詩に行き着く。

小説家がなぜ小説を書くかというと、

まどさんの詩に行き着く。

気持ちを何とか相手に伝えようとことばで表わす。

喜びや悲しみや寂しさはことばでは言い尽くせない。

でも他人に話すことで救われることもある。

しかし、他人がいない状況では自分の中の他人に

語りかける。

「今何をしているんですか? お隣さん」と

姿は見えないお隣さんに語りかける芭蕉。

ことばに発せず、心の中で隣人に問いかける。

ことばのありがたさを教えてくれた詩であった。

 

有無相生

 

 

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