老子小話 VOL 780 (2015.10.24配信)

山暮れて 紅葉の朱を 奪いけり

(与謝蕪村)

 

紅葉の便りがあちこちから届き、

身近な公園の木々も葉を黄色に変えている。

自然は冬に備えて、身支度を粛々と整える。

山の景色が一番美しく見えるのは、

早朝と夕暮れである。

蕪村の句は、紅葉で覆われた山の美しさを

さらに超える夕日の美しさを物語る。

その美しさを、「朱を奪う」と表現する。

燃える夕日の光線を受けたもみじの葉は、

赤い光の中の赤いものなので、白く見える。

まるで、光にその朱を奪われたように見える。

蕪村の句は、科学的に自然美を表現する。

実は、紅葉が美しく見えるのは、葉の美しさ

というよりも色づいた葉に当たる光によっている。

試しに、もみじの葉を手にとって、色を見ても

燃えるような赤ではない。

また、紅葉の山に雲の影が落ちれば、鮮やかさが

消えるのがわかる。

このように対象の美しさは、その対象にどのように

光を当てるかで変わってくる。

強い光を当てすぎると見えないほうがよかった所まで

見えたり、弱い光だと美しさを見過ごすこともある。

先入観で見ることは、赤の光で赤いものを見るような

もので、本来の対象の美しさを見失う。

ひとやものの美しさは、見る人が当てる光で変わることを

蕪村の句は教えてくれた。

新たな気づきは、意識的に当てる光の向きや色や強さを

変えたりして、見え方の変化を探ることから始まるようだ。

 

有無相生

 

 

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