◆老子小話 VOL
779 (2015.10.17配信)
人生には試みなんて、存在しないんだ。
やってみるのは、やったのと同じだ。
(太宰治、「お伽草紙」)
NHKの「100分de名著」で「斜陽」が紹介されて、
話のついでに出た「お伽草紙」を読んでいます。
高橋源一郎氏が言った通り確かに面白く、
その中の「浦島さん」から拾いました。
太宰的に昔話を解釈しているので、
どれも考えさせられることばかりです。
やったことは後戻りできず、すべて運命を
決めていくから、試みなんかないという。
何ページ前かに、信じきってやるのを冒険といい、
冒険心がないのは信じる能力がないという。
傾きマンションの手抜き工事といい、
VWの排ガス不正といい、大企業の社員が
試みで始めた行為である。
耐震には影響がないからデータを書き替える
という試みと、排ガス検査に合格するように
一時的にデータを操作しようという試みである。
試みに味をしめ、ばれないと信じてやったのは、
冒険といえるかもしれない。
忘れていたのは、試みがすべて運命を決めていく
という点である。
事件の当事者が、太宰氏の言葉を目にしていたら、
はっとするに違いない。
自分の行為の責任はかくして重いものとなる。
大人が赤信号でも何気なく道を横切る試み。
車にひかれても自己責任だからOKとはいかない。
その試みを見た子供が同じように渡ってひかれて
足を失えば、他人の運命をも決めていく試みとなる。
たった一回の試みをやるかやらないかは、
その後の運命を信じて選ぶべきだと太宰治氏は教える。
少子化が進むと2050年には一人の勤労者が一人の
年金受給者を支えるようになるという。
年金制度の破綻を見越して節約して貯蓄に励むか、
少子化を是正するために子供を増やすのに協力するか、
未来のある国に移住するか、色んな試みがある。
いずれの試みも選んだなりにその人の運命を決めていく。
怖いから何もしないという試みは一番怖い試みとなる。
有無相生