老子小話 VOL 772(2015.08.29配信)

巨大なエネルギーは、弱さから発している

(幸田文、「崩れ」)

 

山崩れ、がけ崩れ、地すべりなど、

自然の崩壊現場を訪れて感じたことを

まとめた、幸田文氏の「崩れ」(講談社文庫)

からお言葉を拝借しました。

人間は偉そうなことをいっても、

足の下に動かない大地があってのこと。

しかし、自然の中では大地が動く。

大地が動くことで、森林は流され、

家や田畑が流される。

「崩壊とは何でしょうか?」という幸田氏の

質問に対し、富士山の大沢崩れの案内人は、

「地質的に弱いところ」と答える。

そこで幸田氏ははたと気づく。

崩壊現場を見て、自然の巨大な力に圧倒されるが、

それは表面的な感想に過ぎない。

巨大な力のおおもとは、ほんのわずかな弱さに

根ざしている。

地すべりだけでなく雪崩も、わずかな亀裂から

雪のすべり崩壊が始まり、巨大なエネルギーで

被害を及ぼしていく。

地震も、地殻の弱いところからすべりが発生し、

地殻変動という巨大なエネルギーを生み出す。

このメカニズムがわかっていても、弱い所を

修復することはできない。

つまり、大地は動くものとして覚悟して、

自然と付き合うしかない。

弱い所を早めに見つけて、巻き添えを食わぬよう

近づかないか、崩壊に遭遇してもダメージを

最小限にするよう準備するしかない。

防災の日が間近だが、防災の心得はシンプルである。

自然の巨大な力を敬虔に受け入れ、その力に命までも

奪われないように準備し、生き残れば、その幸運を

ばねにして、新たな生活を始めるしかない。

今回の言葉に、そんな思いが込められているようだ。

 

有無相生

 

 

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