老子小話 VOL 767 (2015.07.25配信)

うつし世はゆめ、夜の夢こそまこと 

(江戸川乱歩)

 

最近見たテレビ番組でこの言葉を知りました。

江戸川乱歩は戦前から日本で初めて推理小説を

書き始め、怪人二十面相や明智小五郎を世に

広めた先駆者です。

乱歩氏はサインと共にこの言葉を書いたようです。

「うつし世」とは、現実世界のこと。

「現実の世界はゆめのように流転する。

夜見る夢の方が真実を物語る。」

まるで禅問答のような言葉です。

心が荒波にのまれて右往左往するのが昼の夢。

夜見る夢は、心が自由に現実を作り出す。

そこで思い出すのが、荘子の「胡蝶の夢」でしょう。

夢の中で蝶になって自由に飛んだ人間が、夢から覚めて、

夢かうつつ(現実)か迷う。

蝶が人間になった夢を見ていたのか、人間が蝶になった

夢を見ていたのか?

現実を夢と見るか、夢を現実にするかは、その人次第。

京都龍安寺の石庭は、岩を島と見立て、砂を波に見立て、

デザインされているように見える。

眺める自分が島や波に同化したとき、心は波間を自由に

漂っている。

その浮遊状態で感じることが真実といえないか。

まるで夢が心の座禅の働きをし、現実世界を束縛していた

邪念を消し払い、真の姿が見えてくる。

推理小説はトリックで読者を惑わすが、トリックの裏に隠れた

犯人の心の真実に触れるとき、読者は小説に引き込まれる。

それが推理小説のまことであると乱歩氏は教えてくれます。

 

有無相生

 

 

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