◆老子小話 VOL
762 (2015.06.20配信)
落ち合うて音なくなれる清水哉
(蕪村)
久々に蕪村の句をお届けします。
音のみなもとが集まれば、音はもっと大きく
なるだろうと予想しますが、岩清水の場合は
音が消えていくという驚きの句です。
ノイズキャンセラーのように逆位相の音を
重ねて、音が消えるわけではありません。
俳句は、何が意外性を含んでひとをひきつけ、
鑑賞のきっかけを与えると聞いたことがあります。
山から湧き出た清水が岩の間を流れるときは、
チョロチョロと音を立てますが、清水が山を下り、
合流すると静かな流れになっていく。
清水と清水の出会いを男女の出会いと考えるなら、
出会いを他人に悟られないように忍び合ったのが
万葉の世界です。
「逢瀬」という言葉は、瀬(水の流れの速い所)が
出会うという意味なので、まさに「清水の出会い」です。
出会う前は会いたくて気が急いていた男女が、
出会った途端、交わす言葉も少なく静かに心通わす。
清水の出会いで音は消えていく。
蕪村がそこまで意図したかはわかりませんが、
この句よりイメージの世界は膨らんでいきます。
動きの中の静寂は、タオのテーマです。
蕪村が面白いのは、タオ感覚が溢れているから
かもしれません。
有無相生