老子小話 VOL 760 (2015.06.06配信)

居酒屋の効用のひとつは、

ぼんやりしていられることだ。

(太田和彦、「超・居酒屋入門」)

 

毎晩ひとり酒を楽しんでいる自分は、

ひとりで居酒屋に行くことはめったにない。

最近では旅先の岐阜で、どて煮を味わいに

一杯飲み屋に入った程度である。

太田氏の出演した「久米書店」で、

居酒屋に入門書があることを知り、

通はどのようにたしなんでいるのか知りたくて、

本書を読んでみた。

ぼんやりして酒を飲むなら、家でひとり酒が一番と

思うが、他人が大勢いる中での「ひとり酒」が

できるのが居酒屋で、それが自分を取り戻すのに

一番向いているというのが結論のようである。

居酒屋にはいろんな人が訪れ、それを迎える主人がいる。

「ひとり酒」を楽しむ客を煩わせないように

一定の距離を置いて接客してくれる店が一番よいという。

岐阜の飲み屋でひとり酒していても、隣の客の声は

耳に入り、煮あがった牛もつの串を鍋から取り出し

客の皿においていく、おばちゃんの手際よさを

ほんやり眺めて、酒飲みの一期一会を楽しんだ。

太田氏は「大勢の中での孤独を愉しむ」とクールに

表現しているが、自分の場合、孤独の寂しさを癒しに

ふれあいを求めて居酒屋に行ったようである。

居酒屋に求められるのは、酒でも肴でもなく、

ぼんやりできる店の雰囲気というのは納得がいく。

「ひとり酒」の客にも、ひとりになれる空間を与えて

くれ、杯を前に何時間でもいられる店が居心地よい店となる。

高齢化社会になると、高齢者の「ひとり酒」は増えてくる。

そんな客をかまい過ぎずかつ無視せずに暖かく迎える店が

人気店になること請け合いである。

 

有無相生

 

 

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