老子小話 VOL 747 (2015.03.07配信)

畑うつやうごかぬ雲もなくなりぬ

(与謝蕪村)

 

ひな祭りも過ぎて、寒さもすこしずつ

緩んできたように思われます。

皆様いかがお過ごしでしょうか?

今回は、春にちなんで蕪村の句をお届けします。

季語は「畑うつ」のようで、種まきの前に、

すきやくわで畑を耕すことをいいます。

農作業の始まりは、冬の寒さが緩んでくる春

であることを教えてくれます。

蕪村さんも、ぽかぽか陽気のもとで畑仕事を眺めながら、

春の訪れを感じていたのでしょう。

じっと見入ったあまり、動かなかった雲がいつの間にか

消えていた。

十七音の中に、春の景色が、畑うつ音、土のにおい、日の光、

そして、ゆっくりと流れる時間とともに描きだされています。

この句で感じたのは、雲の流れを感じるゆとりです。

私たちは、空を見上げて、雲の流れを感じるゆとりを

持っているでしょうか。

世の中のすべてを気の流れで捉えるのが、老荘の思想です。

地上から見ていて動かない雲も、上空では気流で運ばれます。

畑を打つことで、地中に眠っていた気が空に舞い上がり、

天の気と交じり合い、空に浮かんでいた雲をゆるりと

動かしていく。

ちょっとおおげさな解釈ですが、気の流れで春の景色を

眺めることができます。

蕪村の生きた農耕社会と私たちが生きる情報社会の違いは、

時間をかけて自然を見つめるゆとりです。

スマホの世界はバーチャルな世界で、五感を通して感じる

自然の恩恵を体験できません。

自然を感じるには、実際に外に出て、日を浴び、風を聞き、

土に触れ、緑のにおいを嗅ぐことが必要です。

情報は体験によって裏打ちされます。

自然を体験する機会は、身近にあります。

アスファルトの割れ目から花を咲かせるの雑草。

スギ花粉も気によって運ばれる季節の贈り物かも

しれません。

 

有無相生

 

 

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