老子小話 VOL 730 (2014.11.08配信)

私たちは決してまったくの一人きりと

いうことはなく、特定の状況のもとでは

何者かを呼び出すことができるのだ。

 (ジョン・ガイガー、「サードマン」)

 

生死を分ける危機的状況の中で、突如現れる「存在」

に導かれ、困難を乗り越える場合がある。

姿は見えないが影に寄り添い、動揺する心を静めてくれる。

そんな「存在」をサードマン(第三の男)と呼ぶらしい。

9.11でジェット機が突っ込んだ81階より上層階から、

炎と煙と瓦礫を潜り抜け生還できた人間。

睡魔と闘いながら33時間の無着陸飛行で

大西洋横断したリンドバーグ。

皆、サードマンに導かれた。

「存在」は、顔見知りの場合もあれば、

顔もわからない幽霊のような場合もある。

しかし、その存在を意識することができ、

危機的状況を脱出したとき「存在」は消えている。

助かった人間は、なかなかそのことを語らない。

自分の精神状態を疑われるからである。

ただ、別に冒険家でなくても、配偶者を失った人間が、

配偶者の霊を身近に感じながら日常を過ごす場合は

珍しいことでない。

どんな時に「存在」に出会えるのか、ガイガー氏は

分析している。生死を分ける極限のストレス状態に

限らず、どこまでいっても地平線しか見えない

退屈な状況でも、「存在」は現れるらしい。

一人ぼっちで広野を長時間ドライブしているとき、

後部座席に誰か乗っているような気がした経験は

自分にもある。その「存在」は、道案内はして

くれなかったが、心の友になってくれた。

大自然が語りかける言葉も、その中に身を置く

人間にとって、風や空気になって孤独を癒す

サードマンかもしれないと思えてきた。

 

有無相生

 

 

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