老子小話 VOL 729 (2014.11.01配信)

生きる道は、たえずわき道にそれていくことだ。

本当はどこに向かうはずだったのか、

振り返ってみることさえ許されない。

 (カフカ)

 

今回は、「絶望名人カフカの人生論」(新潮文庫)より

お言葉をいただきました。

絶望もここまで徹底すると、光を与えてくれます。

ブラックホールは光を吸い込み、そこからは

光は出てきませんが、カフカは光を吸い込みすぎて、

皮膚を通して、光が外に染み出てくるようです。

その光は、蛍の尻を抜ける、闇の中のほのかな光です。

生きていると、思い通りにはいかないことが常に起こる。

大臣になり、政治家の夢を果たそうとした矢先、

政治資金問題で辞職に追い込まれるひともいる。

婚約者と一緒に山に登り、自然災害で相手を失うひともいる。

一度わき道にそれたとしても、立ち直るのに時間を要します。

立ち直っても、更なる偶然でわき道にそれていく。

中国に、「人間万事塞翁が馬」ということわざがあります。

飼っていた馬が逃げて、牧場主が途方にくれていたら、

その馬が別の馬を連れて帰ってきた。大喜びしていたら、

息子が馬から落ちて足を骨折し、働けなくなった。

そのうち戦争が始まり、息子は徴兵されなかったため、

戦死から免れることができた。

人生には、いいことも悪いことも、わき道にそれていく

原因になります。わき道にそれても一喜一憂せずに、

わき道を受け入れ進もうというのがことわざの意味でしょう。

カフカの言葉は、本来の夢は何だったのか振り返ることは

無駄であると厳しい口調です。

枝根のようにわき道のわき道を進んでいる今、

本来の夢にこだわるのは、変えようのない過去を否定し、

現在の自己を否定することになる。

カフカの光は、絶望する自己(わき道を歩む自己)を

受け入れる力のようです。

「人間万事塞翁が馬」に通じる光です。

 

有無相生

 

 

戻る