老子小話 VOL 728 (2014.10.25配信)

さびしさのうれしくも有秋の暮

 (与謝蕪村)

 

秋も終わりに近づくと、寂しさを感じさせます。

夏の終わりから、虫の声とともに秋は忍び寄り、

秋晴れと台風で、収穫と破壊のアクセントをつけ、

黄葉と落葉とともに秋は暮れていきます。

秋の終わりの夕暮れは、その寂しさも募ります。

蕪村は、寂しいことはまた嬉しいことだと句に詠みます。

何故でしょうか?

寂しさを感じることができるから、

ちょっとした出会いで心が温まります。

ご無沙汰だった人から突然の電話をもらったとき。

路上の暗がりで子猫の声を聞いたとき。

姿は見えないけれど、目だけは光ってる。

空を見上げれば、月が雲間からのぞいている。

月の明かりで、地面には自分の影が寄り添っている。

周りが暗く静かなほど、心の感度が高まるようです。

そんな寂しさを与えてくれる秋の暮は、また嬉しくもある。

この句が載っていた蕪村俳句集(岩波文庫)には、西行の

「とふ人も思ひたえたる山里のさびしさなくば住みうからまし」

が注にありました。

山里の寂しさがなければ住みにくいと西行さんも感じています。

ひとの心は、周りの環境に影響を受けやすく、

心の感度を高めようとするならば、今いる環境から遠く離れ、

「秋の暮」状態を意識的に作り出す工夫が必要のようです。

 

有無相生

 

 

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