老子小話 VOL 727 (2014.10.18配信)

人を騙せる人間は

自分のことを正しいと思える人なんです。

逆に騙される方は、

自分が本当に正しいのかといつも疑う人間なんです。

 (吉田修一、「平成猿蟹合戦図」)

 

どきっとさせる言葉です。

物事を決めつける人間の言葉は、

自信に満ちているので、それなりに説得力を持ち、

背中を押してくれます。

それを信じてあとで間違いと気づいたとき、

ひとは騙されたと思います。

でも、騙した本人は信じているので、

騙すつもりはありません。

吉田氏の長編小説の中で、夕子は、選挙戦で

候補者が主張すべきは、その正しさと感じる。

早い話、選挙演説では、候補者がその公約で

有権者をどれだけ騙すかで当落が決まる。

自分を疑う人間も、話をする相手も自分と同じ人間と

考えるなら、騙されることはないかもしれない。

自分と同じように公約の実現性に疑問を感じながら、

候補者も演説していると考えるなら、

彼に投票し、当選後彼が公約を実現しなくても、

騙されたとは思わない。

一方的に相手の正しさに依存するから、騙され感が生じる。

相手も自分と同じく、正しさ半分、間違い半分とみるなら、

信じた結果が期待はずれでも、相手といっしょに夢を見た

で終わります。

心地よい騙され感が長生きには必要でしょう。

誰かに責任をなすりつけるのではなく、

自己責任をつねに感じていれば、

心地よさが残る人生が送れそうです。

 

有無相生

 

 

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