◆老子小話 VOL
721 (2014.09.06配信)
流れるもの程生きるに苦は入らぬ。
(夏目漱石、「草枕」)
温泉に入って、体がふわりと浮いたとき、
「ふわり、ふわりと魂がくらげの様に浮いている。」
と感じたのは、「草枕」の主人公である。さらに、
「世の中もこんな気になれば楽なものだ。」
とまで感じている。
時は流れ、世の中は変化していく。
長い間生きてくると、分別や執着が身に付き、
世の中に違和感を覚えてくる。
それが年をとったということかもしれないが、
昔と今を比較して、今を嘆くことになる。
体のみならず心もまでも流されていけば、
生きる苦労は、少しは軽くなる。
これが漱石の遺言だと思っています。
漱石のこの小説も、過去にとどまらず、
時代とともに流れ、今なお生きている。
まさに詩のように言葉は流れ、
流れる心に沁み入ってくる。
思うに、「流れる」自分を感じるには、
流れに身を置く自分を見ている自分が要る。
その自分が自分の証だとすると、
違和感こそが自分であり、自分を押し通さずに、
現実を受け入れ、流れの中の自分を見守る。
これが、楽な生き方のようです。
有無相生