老子小話 VOL 721 (2014.09.06配信)

流れるもの程生きるに苦は入らぬ。

 (夏目漱石、「草枕」)

 

温泉に入って、体がふわりと浮いたとき、

「ふわり、ふわりと魂がくらげの様に浮いている。」

と感じたのは、「草枕」の主人公である。さらに、

「世の中もこんな気になれば楽なものだ。」

とまで感じている。

時は流れ、世の中は変化していく。

長い間生きてくると、分別や執着が身に付き、

世の中に違和感を覚えてくる。

それが年をとったということかもしれないが、

昔と今を比較して、今を嘆くことになる。

体のみならず心もまでも流されていけば、

生きる苦労は、少しは軽くなる。

これが漱石の遺言だと思っています。

漱石のこの小説も、過去にとどまらず、

時代とともに流れ、今なお生きている。

まさに詩のように言葉は流れ、

流れる心に沁み入ってくる。

思うに、「流れる」自分を感じるには、

流れに身を置く自分を見ている自分が要る。

その自分が自分の証だとすると、

違和感こそが自分であり、自分を押し通さずに、

現実を受け入れ、流れの中の自分を見守る。

これが、楽な生き方のようです。

 

有無相生

 

 

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