老子小話 VOL 719 (2014.08.23配信)

体の栄養は少しずつとるものだ。

栄養をたくさんとったとて、

わずかしか身にならない。

 (パスカル、「パンセ」)

 

人間が生まれ、歩くことを覚え、

言葉を覚え、他人と心を通わせ、

世界に巣立っていく。

思えば、毎日毎日の経験が栄養となって、

少しずつ成長していった証が今の自分である。

いきなり大きな成長を望んでも無理な話で、

一歩一歩積み重ねるしかない。

先週の芥川先生の言葉と結びつけると、

栄養は経験や情報で、消化力には限界があるから、

栄養の取りすぎは消化不良になるというのが、

パスカル先生のお言葉です。

当たり前のことですが、体の中で営まれる

生命活動を意識することはあまりないと思います。

「パンセ」では、この言葉の前に、

「自然は往きと戻りによる進みで動く」(新潮文庫)

と書かれています。

つまり、原点回帰しながら進むのが自然です。

四季の変化は、地球が太陽の周りを回ることで、

潮の満ちひきは、地球の自転で生まれます。

長い目で見れば、人間も裸で生まれ裸で死ぬ。

宇宙でさえ、無から生まれ無に帰る。

原点は無なんですが、無の連続ではなく、

生と死の繰り返しの連続で自然は成り立つ。

古い細胞が死ぬから、新しい細胞が生まれる。

古い星が死ぬから、新しい星が生まれる。

その営みでは、どれとして無駄なエネルギーはない。

なぜか人間だけが欲を出して、余分な栄養に必死になる。

身になるわずかな栄養で満足するのが、

原点回帰の生き方といえそうです。

老子は、これを「足るを知る」と呼んでいる。(第33章)

 

有無相生

 

 

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