老子小話 VOL 714 (2014.07.19配信)

世の中は夢かうつつか

うつうとも夢とも知らず

ありてなければ

 (読人しらず、古今和歌集巻第十八)

 

昔買った「古今和歌集」の文庫本を

ぺらぺらめくって選びました。

人間、世の中について悩むのは、

今も昔も変わりません。

目まぐるしく変化する世界は、

現実なのか夢なのかわからなくなってくる。

ウクライナ上空で民間機が撃墜される事件。

10000m上空を飛んでいる人から見れば、

一体何が起きたのか疑う夢のような話です。

この世の中は存在しているのに存在していない。

存在しているのは、私が認識した世の中であり、

認識された世の中は、私の予想を裏切る方向に

動いていく。

世の中を所詮夢の世界と捉えれば、

何が起きても驚かないかもしれません。

でも人間には、認識のよりどころの定点が必要で、

そこからの隔たりで、存在を認識します。

外の景色が動いているのを見て、自分が乗っている電車が

動いているのを認識するようなものです。

定点が揺れ動くと、価値観が揺らいできます。

平安時代にこの歌を詠んだ人は、

恋人にふられて、相手の愛情に不信を抱いたのでしょうか。

愛されていた状態から見れば、今は夢のように見えます。

裏切られた今から見れば、愛された昔が夢のようです。

恋人の愛は存在していたのに、存在していない。

すべては移ろうものなのです。

世の中の移ろいを眺めて、自分の移ろいを眺める。

「ありてなければ」の正体は、自分の姿なのかもしれません。

 

有無相生

 

 

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