老子小話 VOL 707 (2014.05.31配信)

ふるさとの言葉のなかにすわる

 (山頭火)

 

金子兜太氏の「放浪行乞」(集英社文庫)に出ていた

山頭火の句をお届けします。

ふるさとに帰ってほっとするのは、ふるさとの言葉を

耳にしたときだとよくいいます。

何を話しているのかに関心はなく、

ふるさとの言葉が飛び交う空間に身を置いて、

「やっと無事にふるさとに戻れたんだ」と

しみじみ実感する。

「言葉のなかにすわる」という表現のなかに、

その空間に心地よさを見出し、腰をおろす様子が

目に浮かびます。

山頭火は放浪の旅を続けたので、ふるさとに

帰ったのは久しぶりのことでした。

しかし、その余韻に浸る余裕もなく放浪はまた続きます。

ふるさとの言葉を聞くと、昔の記憶が蘇ります。

ふるさとは、そのひとのルーツであり原点である。

その言葉には、心を原点に戻してくれる力がある。

原点を知れば、今の自分を育んでくれたものに気づきます。

楽しかった記憶も苦しかった記憶も自分の宝です。

道の途中にいるわれわれは、原点としてのふるさとを

時々振り返りながら心を温め、まだ見ぬ道に歩みを進める

勇気をもらっているのかもしれません。

ふるさとの言葉には、不思議な復元力があるようです。

 

有無相生

 

 

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