◆老子小話 VOL
707 (2014.05.31配信)
ふるさとの言葉のなかにすわる
(山頭火)
金子兜太氏の「放浪行乞」(集英社文庫)に出ていた
山頭火の句をお届けします。
ふるさとに帰ってほっとするのは、ふるさとの言葉を
耳にしたときだとよくいいます。
何を話しているのかに関心はなく、
ふるさとの言葉が飛び交う空間に身を置いて、
「やっと無事にふるさとに戻れたんだ」と
しみじみ実感する。
「言葉のなかにすわる」という表現のなかに、
その空間に心地よさを見出し、腰をおろす様子が
目に浮かびます。
山頭火は放浪の旅を続けたので、ふるさとに
帰ったのは久しぶりのことでした。
しかし、その余韻に浸る余裕もなく放浪はまた続きます。
ふるさとの言葉を聞くと、昔の記憶が蘇ります。
ふるさとは、そのひとのルーツであり原点である。
その言葉には、心を原点に戻してくれる力がある。
原点を知れば、今の自分を育んでくれたものに気づきます。
楽しかった記憶も苦しかった記憶も自分の宝です。
道の途中にいるわれわれは、原点としてのふるさとを
時々振り返りながら心を温め、まだ見ぬ道に歩みを進める
勇気をもらっているのかもしれません。
ふるさとの言葉には、不思議な復元力があるようです。
有無相生