老子小話 VOL 702 (2014.04.26配信)

Out of sight, out of mind.

去る者は日々にうとし。

 (ことわざ)

 

最近、新聞か文庫で見かけた言葉です。

人間はまず視覚で物事を認識します。

視覚情報が記憶のもとになるわけです。

ひとに会ったとき、顔は覚えていても

名前が思い出せないというのは、

視覚情報は記憶にとどめても、

言語情報がそれに結びつかないためです。

Out of sightとは、視界から消えることで、

Out of mindとは、記憶から消えることです。

「去る者は日々にうとし」と訳すと、

「故人や別れた者は次第に忘れられる」

とひとに限られてしまいますが、

ひとに限らず、ものや事にも通じるようです。

長い間目にしない漢字は書けなくなります。

「天災は忘れた頃にやってくる」というのは、

この言葉の裏返しで、天災を長らく目にしないと、

その恐ろしさを忘れるという、ひとの習性を語ります。

しかし、視界から消えても記憶に留まることもあります。

ひとは、思い出を物語(ストーリー)として記憶します。

自分の例をあげれば、5歳くらいのとき、両親と親戚のひとと

日光のいろは坂を登った記憶があります。

そのときのひとの顔は思い出せませんが、くねった坂道と

あとからついてくる祖母が誉めてくれたことを覚えています。

今から50年以上も前の話です。

つまりひとは、静止画ではなく動画にして物語を記憶するようです。

なぜ記憶できるのかよくわかりませんが、何か心に快感を与えるか

衝撃を与えることが起きたのだと思います。

それが記憶を意識の底に沈めるのかもしれません。

ということで、視界から消えても心に残っていることと、

そのまま記憶から消えてしまうものがあり、

両者を分けるのが、物語として残る、心への衝撃であるらしい

ことを、この言葉は教えてくれました。

 

有無相生

 

 

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