老子小話 VOL 693 (2014.02.22配信)

入ったものは必ず出る。

 (宮沢章夫、「彼岸からの言葉」)

 

普遍的で、しかも含蓄のある言葉である。

「彼岸からの言葉」(新潮文庫)は、そんな言葉の宝庫である。

誰もが一度はこの言葉の意味をしみじみ味わう。

哲学的な例を挙げれば、

ひとは、この世に生まれ出た途端に、

この世から去る準備を始めることになる。

経済学的な例を挙げれば、

懐に入ったお金は、いずれ懐から出る。

死ぬまで懐に貯めていたとしても、

遺産として家族の誰かの懐に入るか、

受取人がいなければ、国庫に持っていかれる。

金はひとの懐を巡るから、経済が成立つ。

宮沢氏は、もっと身近な例を挙げる。

飴玉を飲み込んでしまい、のどを詰まらせた山本氏が

とるべき対処法である。

「入ったものは必ず出る」

飴を吐き出すことである。

赤ん坊がのどに詰まらせたときも同様に対処すればよい。

指を口に突っ込んで嘔吐させる。

もっと切実な「ささいな極限状態」の例が挙げられる。

これは私も経験がある。

電車のつり革の輪に手首を入れて抜けなくなる例である。

降りる駅に近づくと気持ちはあせり、ますます抜けなくなる。

前述の山本氏も同じ目に遇い、苦しんだ。

そんなときに思い出すべき言葉が、

「入ったものは必ず出る」

冷静に行動すれば、手はするりと抜ける。

迷路や道に迷ったときも、この言葉を思い出そう。

入ってきた道をたどれば出口は見つかる。

避けるべきは、パニック状態である。

「ささいな極限状態」から脱出する道は身近にある。

それに気づかせるのが、この言葉である。

 

有無相生

 

 

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