老子小話 VOL 667 (2013.08.24配信)

人間が生きのびていくために一番大切なのは

怖れという感覚を持てるかどうか

だと思う。(中略)

もっと大きな、

自然に対する畏怖のようなものだね。

(星野道夫、「ノーザンライツ」)

 

星野氏は、アラスカインディアンとの会話の中で

上の言葉を学びました。

インディアンは、カリブや北極熊や鯨を殺して、

その肉と皮と脂と骨から生きる糧を得て、

何千年ものアラスカの歴史をつないできた。

彼らに命を与える自然の生命に対し、

感謝と畏怖の念を持ち、その恵みがいつまでも続くように

トーテムポールにその守護神を刻んだ。

アイヌ民族もまたヒグマを守護神として大切にしてきた。

カネが生まれる前の世界は、自然の恵みを脅かす変化に対し敏感であった。

しかし、あたかもカネがすべて与えてくれるような世界に暮らすと、

自然への畏怖を人々は忘れてくる。

この夏も水の事故は多かった。

岸辺の潮の流れや川の流れは、時間的にも空間的で一様ではない。

それを忘れて水と付き合うと、溺れることもある。

自然への畏怖は小さいころから感覚的に植えつけて置かねばならない。

土地が放射能に汚染されれば、農作物は汚染され、

汚染された地下水は海を汚染する。

水が汚染することは、自然の生命を危機に陥れ、

その生命に養われている人間の命もあやうくなる。

日本は水俣の有機水銀公害から、汚染水の怖さを一度学んだはずだが、

原発の汚染水でまた自然の怖さをもう一度学ぼうとしている。

アラスカに核実験場が建設されようとしたとき、

放射能汚染した水を吸った地衣類を食べるカリブの放射能汚染が

アラスカインディアンに衝撃を与えた。

カリブの肉で命をつなぐ彼らの抗議が計画を中止させた。

問題が起きてから自然に対する畏怖を持つのでは遅すぎる。

自然に対する畏怖を感じながら未来を決めていかねばならない。

 

有無相生

 

 

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