◆老子小話 VOL
657 (2013.06.15配信)
頂上は山登りのゴールではない。
無事に下山して、はじめて登山は完結する。
(竹内洋岳、「登山の哲学」)
世界に8000mを越える山は14座ある。
そのすべてを登り切った初の日本人が
竹内洋岳氏である。
氏は、高所登山を素潜りにたとえる。
いくら深くもぐっても海面にたどり着く前に
息がとだえれば、もぐったことにならない。
同じように、いくら頂上にたどりついても、
生きて戻らなければ山に登ったことにならない。
そんな基本中の基本を厳粛に守る姿勢が
輝かしい記録達成の陰にあったことを教えてくれる。
従って、あとわずかで登頂の場面でも、
刻限にキャンプに戻れないと判断したら登頂を断念する。
無酸素なので歩くペースは自然と遅くなる。
さらに雪崩や天候のリスクを避けながら登頂の日を
気象情報をもとに綿密に練る。
綿密な計画を立てても、雪崩に遭遇し背骨を砕いたり、
登山中に脳梗塞を起こし、死の淵をさまよう。
一緒に登っていたクライマの機転が命をとりとめた。
しかし、それを運のよさにたとえない。
よく、人生は山登りにたとえられるが、
「無事に下山してはじめて完結する」とは、
何とか生き切って人生は完結するというに等しい。
途中雪崩に遭遇して絶命しても、運が悪いとはいわない。
それも天から授かった人生と受け入れる。
死の直前までのその人の生き方が人生の価値を決める。
「登山の哲学」は、道の教えにつながると感じた。
有無相生