老子小話 VOL 648 (2013.04.13配信)

菜の花や月は東に日は西に

(与謝蕪村)

 

こんな風景をどこかで見たような。

そんな気にさせる句です。

菜の花畑は一面黄色ですが、

月が東に昇る頃は夕闇に

その黄色が鮮やかに映えるように

見えるのでしょう。

蕪村の句には視線の移動を感じさせる

カメラワークのようなものがあります。

写真で同時に取り込むのではなく、

近くの菜の花の美しさに驚いたあと、

視線を地上からそれを見守る天空に移し、

さらに天地全体を捉える大きな視野に広がっていく。

これが俳句のダイナミズムなんでしょうか。

視線の移動の面白さだけでなく、

黄色を鮮やかに見せる夕闇と、

それをお膳立てする日(太陽)の運動で

最後を締めくくる。

地上の黄色から天空の黄色に目を移し、

その美しさを引立たせる薄暮を与えてくれた、

沈みゆくお日様に感謝する思いが伝わってきます。

流れていく春の情景を自然にふと見出す

心のゆとりを大切にしたいものです。

蕪村の俳句は教えてくれます。

身近な風景の中に本当の美しさを感じる機会は

いくらでもあることを。

 

有無相生

 

 

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