◆老子小話 VOL 621 (2012.10.06配信)
限りある命のひまや秋の暮
(与謝蕪村)
蕪村の句は、秋の暮を味わうのに
ぴったりだと思います。
この句で面白いのは、「ひま」です。
「ひま」は古語辞典で引くと
「すきま」とあり、忙しい時間と時間の間の
「時間のゆとり」に派生します。
秋の暮も、忙しく追われていれば、
いつもの代わりばえしない暮れになります。
しかし命のひま、すなわち、時間のすきまを
持つことで、秋の暮の趣きを味わうことができます。
そこに「限りある」を持ってきて、更に味わいを深めます。
命に限りあるのは当然ですが、静寂の中で聞く
消え入るような虫の声でそれを悟ることもあるでしょう。
限りあるのは「ひま」なのかもしれません。
心のゆとりがなければ、いくら長生きしても「ひま」は持てません。
命に限りがあり、しかも「ひま」にも限りがある。
そうなると、「ひま」は与えられるものではなく、
自分で作っていくべきものだと気がつきます。
「ひま」の効用は無の効用です。
普段とは違う頭の回転モードにして、
普段見逃していたことに気がつくゆとりです。
特に秋の暮は、夏の間ヒートアップした心身を
癒すにぴったりの時間です。
有無相生