老子小話 VOL 621 (2012.10.06配信)

限りある命のひまや秋の暮

(与謝蕪村)

 

蕪村の句は、秋の暮を味わうのに

ぴったりだと思います。

この句で面白いのは、「ひま」です。

「ひま」は古語辞典で引くと

「すきま」とあり、忙しい時間と時間の間の

「時間のゆとり」に派生します。

秋の暮も、忙しく追われていれば、

いつもの代わりばえしない暮れになります。

しかし命のひま、すなわち、時間のすきまを

持つことで、秋の暮の趣きを味わうことができます。

そこに「限りある」を持ってきて、更に味わいを深めます。

命に限りあるのは当然ですが、静寂の中で聞く

消え入るような虫の声でそれを悟ることもあるでしょう。

限りあるのは「ひま」なのかもしれません。

心のゆとりがなければ、いくら長生きしても「ひま」は持てません。

命に限りがあり、しかも「ひま」にも限りがある。

そうなると、「ひま」は与えられるものではなく、

自分で作っていくべきものだと気がつきます。

「ひま」の効用は無の効用です。

普段とは違う頭の回転モードにして、

普段見逃していたことに気がつくゆとりです。

特に秋の暮は、夏の間ヒートアップした心身を

癒すにぴったりの時間です。

 

有無相生

 

 

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