◆老子小話 VOL 617 (2012.09.08配信)

人間ゆうのは、記憶を燃料にして

生きていくものなんやないのかな。

(村上春樹、「アフターダーク」)

 

しょうもない記憶でも、

悪夢のような生活を生き続けるときの、

燃料にはなる。

小説「アフターダーク」で、

追われるコオロギがマリに語る言葉である。

退屈だった記憶。楽しかった記憶。

怖かった記憶。悲しい記憶。

役に立つか立たないかはどうでもよい。

いろんな記憶をその都度引き出せるから

苦しい今を乗りこえられる。

確かに記憶を全く持たなかったら、

よりどころがなくなる。

記憶というのは、自分の痕跡である。

燃料だが、何回燃やしても消えない。

言葉より情景で記憶している。

言葉で記憶すると思い込みになる。

情景で記憶しているからいろんな解釈が可能になる。

いろんな解釈こそが、生きていく過程で燃料となる。

小説の中で出会った、尾を引く言葉でした。

 

有無相生

 

 

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